「 数値よりも国際協力の本質を。」ソルト井上氏の思い

井上さん アイキャッチ 国際協力

認定非営利特定活動法人ソルト・パヤタスの事務局長を務める井上広之さんのインタビュー連載。第三弾の今回は国際協力に関わっている中で、井上さんご自身に起きた変化や現在の心境、葛藤についてお聞きしています。

まだ第1,2弾をお読みでない方はこちらから

インタビュー第1弾:ソルトパヤタス事務局長の井上広之が国際協力に関わったキッカケ
インタビュー第2弾:ゴミ山パヤタスの変化と今必要な国際協力とは

変わったもの、変わらないもの

– よろしくお願いします。今回で3回目を迎えた、インタビュー連載。第1弾は井上さんが国際協力に関わるようになったきっかけ、第2弾は変わりゆく国際協力の現場についてお聞きしました。今回は、井上さんご自身の心境や考え方の変化についてお聞きしたいと思っています。

僕か〜(笑)。変わったかなぁ…。初めてフィリピンに訪れた時と今を比べると、スキルが身についてできることの範囲が広がったとは思う。でも、ソルトやこの仕事が好きという気持ち、現地の人との関わり方はそんなに変わってないかなぁ。

– では、ボランティアやインターンではなく団体の一員になって改めてみた現地の印象には変化はありますか。井上さんが初めて現地に訪れたのは、お客さんとして参加したスタディーツアーでしたよね。

初めは「フィリピン人は陽気で貧困の中でも笑顔を絶やさない人達だ」っていう印象が全てだった。それも間違いではないけど、長く関わって見えてきたのはフィリピン人だって普通に泣くし、生活のためにはお金が必要だし、自分たちの生活を良くしたいと日々もがいている…っていうリアルな部分だったかな。

– なるほど。陽気なところはありますが、やっぱり同じ人間ですもんね。

お客さんとして参加する2週間とかのスタディーツアーは良くも悪くも特別な時間やからね。そういう意味でいうと、最初と今では「フィリピン人」についての印象は少し変わったと思うよ。

インターン後の国際協力との関わり方

– 長く関わるとみえてくる一面もあると。1年間のインターンで現地にいた期間に、なにか心に引っかかることや疑問は生まれましたか。そして、その答えは数年が経った今、見つかっていますか。

個人的な話なんやけど、インターンの1年間は自分ができることを探したいっていう学生にありがちな1年間やったからなぁ。結局、最終的にはなんもできんかったなって思いが強かった。

– 活動する対象についての疑問や課題感というより、自分が無力なことを思い知った1年間だったんですね。インターンでは具体的にはどんなことをやられたんですか。

スタディーツアーの引率や広報のための記事の執筆や情報収集やね。もしかしたらツアー参加者や、記事の読者に対して影響を与えられた部分はあるかもしれないけど、現地の人に対して何かできたかっていうとそうじゃなかった。インターンの後、「自分は何かできたのかな?」ってのはすごく考えたかなぁ。

– 自分の存在意義を深く考える機会になったんですね。課題が明確になったり、行動が変わったりしましたか。

当時から、企業と同じようにNPOも選ばれる時代になると感じていて、時代に適応しなければ非営利組織も生き残れなくなるんやろうなぁと思ってた。だから、一般企業でマーケティングや営業のスキルを身につけた方が、結果的に役に立てるのではないかという考えに至った。

– それで第1弾のインタビューでお聞きしたように、一般企業に就職されてソルト・パヤタスに外側から協力する道を選ばれたんですね。

うん。インターンする前は国際協力の道に直接進もうと思ってたんだけど、インターン後は一般企業に入ろうっていう気持ちに変わってた。ある意味、それがあの期間のおかげで自分の中で1つわかったことというか、答えやったかなあ。

同情で刺す国際協力への違和感

井上さん3 画像2

– 企業で3年間勤めたのち、ソルト・パヤタスで活動し始めて3年目ということで、節目の年だと思います。井上さんご自身の今後の展望とかってありますか。

ずっと資金調達の分野とかに興味があったけど、今は現場に戻りたい気持ちがある。あと気になっていることでいうと最近の日本のファンドレイジングや事業の組み立て方に少し違和感を感じている部分があるかなぁ…。

– どういうことですか。

資金調達の広告に子どもの写真と共に「この子はこんな悲惨な生活をしてます。」みたいなフレーズが載ってることってよくあるやん。ファンドレイジングするにあたって、その手法や技術を学ぶ機会もあるし、実際に悲惨な状況をキャッチーに伝えて問題提起をすることに価値はあると思う。でも僕は、その写真に写っている子がもし「日本という裕福な国で、自分が悲惨な子ども代表として紹介されている」と知ったらどう思うのかな、とか考えてしまうんよね。

– お金を集めるために、勝手な写真の使用や彼らの想いと隔たりがある内容が伝えられているのではないか、という部分に違和感があるってことですか。

もちろん必要性は理解しているし、日本の人に現場の問題を伝えるというのは重大なことやと思う。もしかしたらモデルを使ってるのかもしれない。それでも誇張がすぎたり、本人たちとの気持ちと広告の内容に溝がある気がして…どうしても違和感が残る。これは個人の価値観の問題かも知れんけどね。

– わかります。

それと途上国の現状は一括りに悲惨で可哀想みたいなイメージだけが一人歩きしてしまって、他国で共有されてるそのイメージこそが途上国の自尊心を下げていることがあって、そういうのがなんか嫌やぁと思うようになってきたかな。

– あーなるほど。この情報社会で世界がどういうイメージを自分たちに持っているかもわかりますからね。良い代替案はあればよいのですが。

誇張して悲惨な状態を伝えて同情でお金を集めるんじゃなくて、支援した先に待っている彼らの明るい未来をきちんと伝えてそこに賛同してくれる人や組織から支援して欲しいっていう気持ちがある。というか、そういうことができる人材になりたいかなぁ。

数値よりも現場ファーストの国際協力を

井上さん3 画像4

– 他に、最近になって考えていることや思うことがあれば教えてください。

あとは、現状としてNPOも結果出してなんぼやみたいな、指標を決めて細かく評価をしていきなさいという体制が主流になってきている気がして…。これも成果をきちんと評価して、意味のある活動しましょうという理屈や重要性は、もちろんわかるんやけど…。

– そういうものだけでは割り切れないことが多くありますよね。特に現場最優先でやっているNPOは企業のように目標達成に向けてひた走れるほど単純ではないですよね。

うん。なんかね、これは僕の言い訳かもしれないけど、現地の人はそんなすぐには変わらないし、変えられない。そしてその人がどう変わったら成功とかは、別に僕らが決められることじゃないと思うんよ。

– たしかに基準を定めるならそれ相応のゴールが必要で、そこがなかなか可視化しづらいサポートや試みって沢山ありますもんね。

そう。そういった評価基準を作ってしまうと、職員やスタッフとしては当然その評価基準を達成するために行動するやろうからね。

– 現地の人たちファーストじゃ無くなる部分が出てくる可能性はありそうですね。

例えば、不登校の子どもたちを学校に通えるようにすることが目標になったときに、30人子どもがいたとして、その内の10人が非協力的だった場合、結果を追うと残りの協力的な20人にサポートが集中しちゃうじゃないですか。じゃあ残りの10人は誰が支援するのか?ってことになる。評価制にしちゃうと、誘導的になってしまう可能性があって、それは良くないと思っています。

– なるほど。

また、評価基準を決めるにしても自分たちの価値観で評価基準を決めるんじゃなくて、現地の活動なら現地の人と考えることも大事なんじゃないかなと思います。

– ゴール設定を一緒に考えるってことですね。それが現場に戻りたい理由ですか。

そう。今話したようなことを色々と考えているものの、ファイナンスの部分も含めて現地でがっつりと組織を回したことはまだないし、時代も変わってきているので、そういう理由で現地にもう一度戻って現地の人によりそって、事業の本質を考えたいっていうのがある。

– 勉強になりました。ありがとうございます!

インタビュー第1弾:ソルトパヤタス事務局長の井上広之が国際協力に関わったキッカケ
インタビュー第2弾:ゴミ山パヤタスの変化と今必要な国際協力とは

特定非営利活動法人ソルト・パヤタス
活動理念・貧困に苦しむ人々が、自己の能力の発見、向上を通して、自信と希望をもち、生活の向上を果たしていくための具体的支援を行うこと。・貧困・格差の問題に関する理解を深め、公正な社会をめざし地域・職場・学校で活躍する人材を育てるための啓...
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