認定非営利特定活動法人ソルト・パヤタスの事務局長を務める井上広之さんのインタビュー記事の連載の第二弾です。変わりゆくパヤタスの環境と課題、それに伴いNGO側のアプローチの変化、今求められている国際協力を教えて頂きました。
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インタビュー第1弾:ソルトパヤタス事務局長の井上広之が国際協力に関わったキッカケ
インタビュー第3弾:「数値よりも国際協力の本質を」
経済成長と共に変わっていくフィリピン
– 前回のインタビューでは、井上さんが国際協力に関わったキッカケについて幼少期まで遡ってお聞きしました。本日は、日々の活動の中で井上さんが感じている現場の変化ついて教えてください。
– 井上さんからみて、フィリピン自体は変わってきていますか。
めちゃめちゃ変わった思う。倍とまではいかないけど物価が高くなったし、治安もなんとなく良くなってきたように感じるかなぁ。2010年当時はジプニーの初乗りは7ペソ(今は9ペソ)やったし、マクドとかも今は日本とあんまり値段変わらんけど、当時は「めちゃめちゃ安い!」ていう感覚があった。
– へえ!フィリピンの急激な経済成長が伺えるお話ですね。井上さんが長年活動してきたパヤタスもですか。
そうね〜…。見た目はすごい変わった。初めて訪れたときは、コンクリートの道なんかはほとんど無かったけど、今は主要な道はある程度きちんと舗装されてる。
– 現地の人たちの生活はどうですか。パヤタスの物価も他の地域と同じように上がったと思います。
風景はあんまり変わってないなあ。平均所得はパヤタスも上がってきたなって感じがする。その分物価も上がってるから大多数の住民の生活はあまり変わっていない気はするけどね。でも、10年前にはほとんど見なかった、立派な2階建コンクリートの家も所々にできていて、一部の人たちの生活は向上しているのかな、と思う部分もあります。
– なるほど。前回のインタビューのお話に登場したおばちゃんは現在、どんな暮らしをしているんですか。
前回の記事でフリマのエピソードで登場したおばちゃんは、今も関わりがあってこの前会いに行ったら家が2階建になってた!子どもが11人くらいいるから、年齢の高い子たちはもうひとり立ちしてお金を実家に入れてるんじゃないかな。
時代の変わり目で顕著化する新たな問題
– そんな風に現地で変わってきた部分と変わらない部分があると思いますが、近年になって改めて顕在化した問題もあるんですか。
パヤタスでいうと、立ち退きが相変わらず実施されてしまっているなぁと。昔からごみ山の拡大に伴って、定期的に2000年くらいから行政主導の立ち退きが数年に1回のペースで実行されてて、知ってる人同士が違う地域に移されたりとか、突然に家を壊されてしまったり…みたいな現実があります。
– それはいろんな国の地域で共通する問題でもありますね。強制的に立ち退きを指示された人たちはどうしてるんですか。
一応、行政から移住先は用意されてはいます。日本でいう団地みたいなイメージかな。家自体のクオリティはパヤタスに住んでるときより良い家なんやけど、そういう問題じゃないことも多いから。
– 仕事も無くなっちゃいますもんね。
そうそう。まさに今も立ち退きが計画されてて(※)、パヤタスから3時間くらい田舎の離れたところらしく仕事はもちろんないし、移住先のコミュニティ内も貧困の人しかおらんから、生活が結構厳しくて無理してパヤタスに戻る人とかもおる。(※)記事掲載時の2019年11月現在は、立ち退き計画は停止されている。
変化する現場に対してNGOは今
– そんな現場の環境の変化の中で、ソルト・パヤタスのあり方には変化がありましたか。
子どもの教育支援っていう軸は、そんな変わってないですね。変わらず子ども達が学校にいけるようにサポートすることや、親たちに向けて収入の向上に繋がる知識やお金に対しての正しい知識を身につけてもらうという活動をやってます。
– 活動において軸や根幹は変わらないということですね。では、変わらない軸を保ちながらもアプローチや伝える内容は変化していたりしますか。
その観点でいうと、昔は日本でスポンサーを集めてダイレクトに子供の学費の支援するといった経済的な切り口の支援が主やったんですが、2010年くらいから子どもたちやその親に対して、教育の重要性や価値観について考えてもらうような時間を提供する機会が増えた。
– なるほど。子どもへの援助だけではなく彼らを教育する立場の保護者に対してアプローチする機会が多くなったんですね。
そう。保護者に対しては教育の重要性を知ってもらう機会を設けてる。教育の成果が出るのって、当たり前やけど15年後とかじゃないですか。でも、彼らは今日とか明日のために日常を生きてるので、長期的に物事をみる視点がどうしても育ちにくいんです。その大切さを伝えています。
– 物事に対しての考え方、捉え方をアップデートする感じですか。
そうそう。あとは困難に直面したときにそれを乗り越えるためのマインド面のマネジメントのスキル向上についてお手伝いしたりしてます。資金援助も続けながら、ライフスキルという、個々のスキルやマインドの部分への支援をはじめたのは大きな変化かなぁ。
変化に対して変わっていくアプローチ
– 現場の環境の変化に対して、軸はぶらさずに支援の内容やアプローチが変わってきているということですね。フィリピンやソルト・パヤタスの変化について主にお聞きしてきましたが、そこに対して課題や解決策ってありますか。
先のライフスキル支援に関わる話なんやけど、ソルト・パヤタスができた25年前は学校にいけない子どもが山ほどいて、とにかく学校に入学してもらうことが本題やったんやけど、最近では学校には入れるけど色んな理由で辞めちゃう子たちが顕在化してきた。だから学校に通い続けられるようなサポートが解決策になるんかな。
– それがさっきおっしゃってた経済的な面でのサポート以外で必要になってきた活動ということですね。
そう。学校に通えない理由は結構シンプルにお金がないからってことが多いんですけど、学校が続けれない理由は結構色々あって、兄弟の面倒を見なくちゃいけないからやめるとか、勉強ついていけなくなったからやめるとか、先に辞めた友達にお前も辞めちゃえって言われるとか。
– 当時より問題の理由が多様な分、問題に対するアプローチも難しいってことですよね。
色々ある原因に組織として一つずつ対応するのは難しいから、現地の人のマインドが変わるしかないっていう風に思います。僕らが変えるというより、気づいてもらうという表現が正しいんやけど。その気づきに対してのアプローチがライフスキル教育だという風に認識しています。
– 具体的にはどういうことをやられてるんですか?
図書館を作っていろんな職業を知れるような本を集めたり、読み聞かせをして本の楽しさを教えてます。子供に対しては早いうちに多くの選択肢をみせるというか、世界を知ってもらうっていう意図ですね。もう少し小さい子たちには、お絵かきのワークショップなどを通して想像力の育成や絵を通したコミュニケーション能力向上、あとは集中して何かをやる力などを学んでもらってる。
– ありがとうございました。次のインタビューでは、環境や経験による井上さんご自身の変化についてお聞きできたらと思っています。
インタビュー第1弾:ソルトパヤタス事務局長の井上広之が国際協力に関わったキッカケ
インタビュー第3弾:「数値よりも国際協力の本質を」
